アマプラで配信中の実写ドラマ「笑ゥせぇるすまん」を見た感想です。
ネタバレもあるのでご注意を。
原作での描かれ方について
まずは原作版及びアニメ版のあらすじをご紹介していきます。
「たのもしい顔」といえば、笑ゥせぇるすまんアニメ版の第1話であり、記念すべきタイトルです。(ちなみに原作の第1話は「ともだち屋」。)
お客様として現れるのは、周囲に頼られて辟易している頼母雄介(たのも ゆうすけ)。
彼は顔つきが立派過ぎるという理由で、周囲からは期待されることが多く悩んでいます。
そうしたプレッシャーに苛まれながらも、これまで懸命に耐えてきた事を訴えるのです。
「本当は甘えたい」という渇望に対し、喪黒福造がその心の隙間を埋めようと提案。
最初は断る頼母でしたが、会社でも家庭でも相次ぐトラブルの相談に対し、ついに苛立ちがピークに。
そして、喪黒の案内した場所にいた女性「観音様」の元で全裸になって甘えまくると言うストーリーです。
この「観音様」というのが恐ろしく描かれていると同時に、小さく腑抜けになって赤ちゃんのようになる頼母の姿があったのでした。
たのもしい顔の見所
全体に言えることですが、笑ゥせぇるすまんの根底にあるのは、願望を満たせない人間の「悲哀」です。
頼母の場合は、部長という肩書を持ち、良き父・良き夫であり、ハンサムで女性からモテるという理想的な人物です。
しかし、それはあくまで見せかけの人物像であり、本当は甘えたいけど甘えられないという現実に悩んでいます。
そうした悲哀に付け込み、「もし甘えたらどうなるか」という思考実験の結果が描かれるのです。
見せつけられた妻と息子はさぞショックだったことでしょう。
一方、そんな家族のことなど忘れたかのように、怠惰を貪るかのように甘える頼母のギャップ。
そこにあるのは黒さだけではなく、どこか面白おかしいユーモアがあるのです。
さらに、緊張感があり、目が離せない展開が待っていて、最終的に何とも言えない感情を揺さぶってくる事こそが、笑ゥせぇるすまんの見所だと思います。
怖いオチも多いですが、たまにハッピーエンドがあるため、ワンパターンにならないのも非常に面白いポイント。
最後まで結末が分からないというスリルが楽しめるのです。
ドラマ版(アマプラ)との違い
そんな原作の面白さや魅力を期待し、意を決してアマプラ版のドラマ第1話を見ました。
しかし、原作のような「笑ゥせぇるすまん」らしい要素はほとんど認められませんでした。
そこには期待するような悲哀やユーモアの要素はなく、特に求めていないギャグのオンパレードでしかなかったです。
ただただ頼母が情けない奴でしかなく、最初から子供のような存在として描かれています。
無力で無知であるが故、「何もできずにただ困っているだけ」であり、プレッシャーや葛藤などの人間味も非常に薄い。
そして1話を見終わったあと、激しい虚無感が押し寄せてきました。
あれ?
現実と理想のギャップに苦悩して、その弱みに付け込むという重要なドラマの要素は?
ファンとして断言しますが、これは笑ゥせぇるすまんじゃありません。
というか、こんな出来であればドラマ化なんてしないで欲しかったです。
原作へのリスペクトを感じられなかったため1話で切るに至りました。
ひどい点を列挙してみた
ほかにもひどいと思った点がいくつかあるので、列挙していきます。
そもそも頼母の描かれ方がひどい
原作の頼母は、周囲からの期待に応えるため、顔に見合うように努力してきた人物です。
だからこそ、「赤ちゃん返り」というギャップが面白いというのに、なぜ最初から赤ちゃんのような人間なのか?
最後に待ち構えているオチにつながる重要な要素が最初からぶち壊しです。
喪黒福造の登場シーンがひどい
一番肝心な喪黒福造の登場シーンも最悪でした。
なぜ洗面台の排水溝から顔を出していたのか…。
普通に不穏気に背後から忍び寄るとか、普通にそういうのでいいのに。
インパクトはあったものの、「ああ、これはギャグでしかないんだ」という最悪な予感通りの展開となりました。
顔芸シーンがひどい
喪黒が頼母に対して表情のトレーニングを提案するのも助長的。
数分に渡って顔芸を披露しますが、これがくどくて仕方ありませんでした。
コントのワンシーンとしてなら良いのですが、笑ゥせぇるすまんでお笑いをやらないで欲しかったです。
オチが全然面白くない
最も致命的なのがオチです。
流石に原作のような表現は無理だと思っていたからこそ、どうなるかという期待はありました。
が、その期待を全然上回らないガッカリしたものとなっています。
例えば、笑ゥせぇるすまんに期待するのは「上げてから落とす事によるフリーフォールのような体験」です。
いい目に合っている人が調子に乗って「ドーン!」される瞬間こそが見所と言っても良いでしょう。
しかし、ドラマ版はストーリー展開に起伏がなかったため、そもそも盛り上がれる点が皆無なのです。
突っ張り稽古というのも意味が分からな過ぎて、改悪もいい所です。
普通に考えて、力士に囲まれる=頼もしくて嬉しい!ってなりますかね??
総評:笑ゥせぇるすまんじゃなければよかったのに
ちょっと笑えるところもあったのですが、「20分以上も引っ張った結果これはないだろ…」というのが総評です。
本来の笑ゥせぇるすまんで描かれる悲劇とは対極であり、本作は「ロバート秋山氏ファンのための喜劇」だったのでしょう。
最初から、キャストで判断するべきだったのでしょうが、原作ファンとしては1度は視聴せずにはいられなかったのです。
結果的にガッカリする事にはなりましたが、笑ゥせぇるすまんというタイトルを再び世に出してくれたことには感謝します。
改めて原作の素晴らしさを再認識できたのですから。
なので、このドラマは笑ゥせぇるすまんをパロディにしたコントとして見るのが正解かと思われます。
笑ゥせぇるすまんではなく、単なる「コメディドラマ」であれば面白いかもしれませんからね。
最後に
個人的には、どうせ見るならば2017年版の笑ゥせぇるすまんNEWの方をオススメしたいです。
これはこれで酷評もされがちですが、原作リスペクトを感じ、現代社会が反映された内容でもあったので良くできた作品だと思います。
旧作のような不穏さは薄れましたが、ポップながらも黒さがあり、ストーリーも普通に楽しめました。
こちらから視聴できます⇒笑ゥせぇるすまんNEW