亜人 最終巻まで一気読みした感想 (ネタバレあり)

亜人 全巻

桜井画門先生による名作漫画、「亜人」。

2012年から連載されて、2016年にテレビアニメ化。

さらに、2017年に映画化されています。

 

僕は当時放送していたアニメを初めて見て、この作品に引き込まれました。

ただ、当時は漫画がまだ完結していなかったので、「完結したら全部まとめ買いして一気読みをしたい」とかねてから思っていました。

 

そして、ついに2021年の2月に完結し、最終巻である17巻の単行本が発売され、ようやくそれを達成することが出来ました。

読んでいる最中は、面白さと、どういう展開が気になり、ページをどんどん読み進め、1日かけて全て読み終えました。

 

しかし、僕は読み終わった後に「面白かった」と同時に、「なんか惜しい」という感情が芽生えてしまいました。

 

その気持ちを書かずにはいられないと思ったので、今回は「亜人を全巻一気読みした感想」について書いていきたいと思います。

 

結末に関するネタバレもありますので、ご注意ください。

本編を読まれる方は、↓電子書籍サイトでも無料立ち読みできます。

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亜人において残念だった点

・・・さて、この漫画で僕が残念だと思ったのが、最初の数巻以降のストーリーの起伏が若干薄かった点です。

というのも、この漫画は最初の方こそ、怒涛の展開が押し寄せていました。

 

例えば、

・「亜人」という不死身の存在の示唆。

・亜人は、人間扱いされず、研究の対象だという事。

・1話にて、主人公の永井圭が、まさかの亜人だったことが即バレ。

・そこからの息もつかせぬ逃亡劇。

・助けを惜しまないカイという、どこか謎めいた幼馴染の協力者の存在。

・佐藤という亜人にとってのメシアのフリをした、ただの遊び人による大量殺戮。

・むごたらしすぎる人体実験をされる永井。

・亜人の実験収容施設からの脱出と、佐藤との確執。

・来るべき佐藤との闘いへの準備と、仲間を集めての作戦立案と共闘。

 

…などなどと、目が離せないほどの展開が待っています。

 

非常に魅力的で、洗練されたストーリーだと思います。

 

ところが。

上記の展開は1~2巻までであり、3巻以降からはずっと「佐藤との闘い」に主軸が置かれているのです。

いわば、「佐藤」という1人の亜人に振り回されてしまって、それありきのストーリーだったのです。

 

ですので、最後の最後でようやく佐藤に勝利をしたことで、漫画としては「完結」はしていますし、これ以上ない終わりだったと思います。

しかし、佐藤を倒した後の展開も見たかった、というのが正直なところです。

 

アニメ版では、一度勝利を収めて終わったものの、再び佐藤が復活する…、みたいな終わり方でした。

「どうやって佐藤は復活したんだろう?」

「復活した後、どうやって倒すのだろう?」

 

そんなことを想像させ「つかの間の勝利」によって物語に起伏が生まれ、そこからの展開に期待をしていました。

僕は漫画もきっとそういう展開になると思い込んでいました。

 

けれど、アニメでは勝利を収めた戦いでは、実は原作だと「敗北」に終わっていたのでした。

終始、佐藤が最強すぎて、まさに無双状態の彼をいかにして止めるか!?という事だけだったのです。

 

もちろん、それはそれで面白かったですし最初から「そういう漫画」として読んでいれば納得できたかもしれません。

しかし、初期の展開が何より面白過ぎたので、別の展開も見てみたいと思わざるを得ませんでした。

 

では、なぜこうなってしまったのかというと、それは理由があるようでした。

その理由は、0~6話まで携わっていた原作者である三浦追儺氏が、この仕事から降りてしまった事にあるようです。

その理由については調べても謎のままでした。(いわゆる大人の事情。)

 

それから画門先生がその分をカバーされたという事ですから、それはとてつもない労力だったと推測できます。

それを考えれば、あれこれと口を出すのもおこがましいかもしれません。

 

しかし、ずっと楽しみにしていただけあって、この「惜しい」という感情の行き場をどうにかしたいという、自分勝手な事を書かせていただきます。

そこで、僕が「亜人」で見てみたかったシーンや、楽しみにしていた要素を書かせてください。

 

亜人で見てみたかった要素

①永井圭のIBMについて

僕は永井の「濃いIBM」という設定をもう少し活かしたシーンが見てみたかったです。

アニメ版だと、最終局面にて複数のIBMを出してついに宿敵の佐藤を破る!というシーンは見ていて胸がすき、見どころでした。

 

ただ、漫画ではそういう場面で描かれなかったことが、非常に残念でなりません。

一応、漫画内でも多数のIBMが終盤に出た事には出ましたが、それによって佐藤を倒すわけでもなく、逆に大勢の人々が被害に遭うなどの大惨事に…。

 

永井だけは長時間複数出せるのなら、操るために訓練し、それを戦力として計算に入れるみたいな展開も見たかったです。

また、「多数のIBM召喚による数の暴力」みたいなゴリ押し戦法とかも見たかったのですが、それもなかったのがやはり残念。

 

せっかくの主人公の才能なのだから、そこは「逆転の一手」になって欲しかったなぁと思ってしまいました。

 

②IBMの形状について

また、僕はもうちょっと「IBM同士のバトル」を見てみたかったです。

例えば、佐藤は、永井のIBMを初めて見た時「形状はプレーン」と表現していました。

 

そのセリフによって、僕はIBMの違いによって、何らかの特性がそれぞれあるのかなと思っていましたが、特にそんなことはありませんでした。

一応、空を飛べるIBMは登場しましたが、活躍のシーンはあったのかといえば、正直イマイチでした。

 

また、IBMによる戦いも描かれましたが、単純な殴り合いがメインで、相殺でしかないというのも、ちょっと残念でした。
(頭がぶつかることで、お互いの記憶が入り乱れるというのは、面白いと思いましたが。)

一応、IBMも銃を撃ったりヘリを操作出来たりできますが、人間以上の力ではないのです。

 

つまり、IBMは全体的に地味な役回りなのが残念でならないのです。

 

とはいえ、これはジョジョにおけるスタンドのようなものを勝手に想像してしまった僕が悪いのかもしれません。

ただ、せっかく形状が違うのなら、その形状の違いは何で生まれるのか、というのも気になるところでした。

デザインは非常にカッコいいのに、何らかの「差別化」が出来ていなかったのが、どこかもったいない…!!

 

③カイとの関係について

カイとの関係も非常に残念だったというところです。

カイはいったい何なのか、なぜそこまで永井のことを思って行動できるのか。

僕はそれが終始気になっていました。

 

しかし、それは単純に、カイがただ困っている人に対し「そうしてしまうから」という事であり、別に永井だけをひいきしているわけではなかったのです。

結局、2人は友達じゃなかったという結末だったのが、なんだか悲しかったです。

佐藤めがけて命を懸けてバイクで特攻したのに、ただ「そうしてしまうから」で終わってしまったのはもったいなさを感じました。

 

正直、それだけの登場であれば、カイの存在はあまり重要でなかった気もします。

では、なぜカイがこうなってしまったかといえば、それは中野の存在にあると思います。

 

本来のカイのポジションとして、のちに中野が登場してしまったので、それで事足りてしまったのでしょう。

最終巻にて、永井と最後に別れの挨拶をしたのもやはり中野だったので、彼こそ本当の友達だったのではないか…なんていう気もします。

 

同じ死線を潜り抜け、他人を褒めなかった永井が「さすがお前だ!」と心の底から褒めたのが中野でしたし。

僕はカイというキャラを非常に気に入っていたので、彼をもっと活かして欲しかったなぁと思っていました。

 

④中村慎也はどうなったのか?

日本で最初に確認された亜人の中村慎也も、もう少し本シナリオに絡んで欲しかった、とも少し思います。

僕は佐藤との戦いが終わった後にでも出てくるのかな、と少し期待していました。

しかし、彼は2巻に収録されたfile:000だけの存在にとどまり、本編に出てくることはありませんでした。

中村慎也は、佐藤の暴走や闘いを見て、何を思っていたのかとか、そんなことを考えてしまいました。

しかし、登場しなかったというという事は、本編には活躍の場もなく、必要なかったからなのでしょう。

 

ですので、彼の今後は気になるものの「謎の存在」のまま終わったのも、ある意味では面白いのかもしれません。

 

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とまあ、失礼を承知でいろいろ書きましたが、こんなところです。

きちんと原作をコツコツと読まれていたファンの方からすれば、「堂々の完結」となり、感動もひとしおだったかもしれません。

ですので、一気に読んでしまった僕が悪いのかもしれません。

 

しかし、この亜人という作品のもっともよかった点は「想像力を掻き立てること」にあると思います。

僕がアニメを放送していた時は、伏線や考察などもネットで盛り上がり、「カイは実は亜人なのでは?」とか「中村慎也はその後どうなるのか?」とかいろんな雑談でにぎわせていました。

 

僕も、アニメ放送終了後から「漫画では一体どういう展開が待っているのだろうか?」というのが気になっていたのです。

こうした考察や謎を産むには、やはり「魅力的すぎる設定」にあると思います。

 

ですので、たとえ「見切り発車」で始まった作品(最終巻にそう書いてあった)だとしても、こうした斬新で謎めいた作品が世に出てくれたのはありがたく、非常に楽しませていただきました。

 

見たかったシーンはあれど、結局僕の勝手な思いでしかなく、それを抜きに考えても素晴らしい漫画だったことに間違いはないと思います。

ですので、今作の見どころだったシーンを何点か書いて、終わりたいと思います。

 

亜人の見どころについて

①最も盛り上がったシーン

個人的には13巻~14巻にかけての、「対亜人特選群」の登場したシーンからの「さすがお前だ!!」までの展開が、非常に盛り上がりました。

主要キャラの戸崎さん、佐藤の側近等が退場していき、終盤に向かっていく展開。

 

そこで、ようやくあの文字通り不死身で最強の佐藤を、ギリギリのところまで追い詰めることが出来るという事に、緊張感と興奮がおしよせました。

しかも、その勝利目前に対し、佐藤のまさかの「飽きた」という点も、まったく先読みできませんでした。

 

こうした緊迫感と疾走感あふれる展開や、予想を裏切るシーンを圧倒的な画力で魅せるというのは、普通に面白過ぎました。

 

あれこれと余計なことを考えず、「佐藤との闘いで完結する作品」としてみれば、亜人は非常に面白いのです。

 

②圧倒的なスケールの大きさ

また、この漫画における魅力は圧倒的なスケールの大きさです。

佐藤のぶっ飛んだ発想により、瞬く間に日本は壊滅してしまうのです。

いくつかのフェーズを経て、その規模は徐々に大きくなっていきます。

 

そして、最後には、佐藤の宣言通り「たった2時間」で日本は壊滅寸前にまでなってしまうのです。

僕はこれを読んでいた時、最初は「どうやって2時間で壊滅させるのか?」という疑問が浮かびました。

そして、その答えは、僕のような凡人には絶対に思いつかないほど、衝撃的なものでした。

こうした大胆過ぎる発想には唸るばかりでした。

 

佐藤の底知れぬ恐ろしさと、「もし最強の不死身の人間が世界で暴れたらどうなるか?」、という疑問に対する答えがそこに描かれていました。

 

③登場人物の魅力について

最後は、登場人物たちの魅力を書きたいと思います。

 

永井圭について

まずは主人公の永井圭についてです。

彼は最初こそ感情的な要素があります。

それが次第に合理主義的で冷血なふるまいを見せるようになっていきます。

亜人という事もあって、彼が徐々に人間離れしているようにも見え、その心の内が読めないところが作品に独特な緊迫感を与えていました。

 

しかし、そこには感情がしっかりあり、たった1人になっても最後まで執念をもって抗う、という根性を見せてくれました。

彼は「人間は変わらない」と言っていましたが、やはり最初から最後まで「永井は永井」だったのでしょう。

そんな彼の本質を知っているのは、彼の母親や、側で見ていた中野でした。

 

僕としても永井に対し、徐々に感情移入できるようになっていき、ザ・頭脳派合理主義主人公として最後まで貫いてくれました。

 

佐藤について

続いては佐藤についてです。

佐藤は一貫して「ゲーマー」であり「飽き性」という性格なのが、ほかの漫画にはいない、超個性的なキャラクターだと思います。

子供っぽいところもあり、常にひょうひょうとしていて冷静。

また、非常に演技派で、か弱い老人を演じることで軍人すらも騙し、怒ったフリをするだけでも、ものすごく恐ろしい。

優しそうな初老に見えるけれど、超俊敏で「殺すのが結構好き」と自称するほど残忍で強く、頭もものすごく切れる。

そして、それが不死身。

考えただけでも、とてつもなく恐ろしい存在です。

それだけ超個性的ならば、当然ラスボスにならないといけない強烈なキャラクターです。

そして、そんなラスボスが序盤に出てきてしまえば、常にそれと戦うストーリーになってしまうのもうなずけます。

 

とまあ、そんな2人が戦うのですから、面白くないわけがないのです。

それと、すでにほとんどのキャラクターたちは成熟していて、それぞれの思惑があり「適材適所」的な配置で、戦略要素があったのもよかったです。

 

また、何人かのキャラクターには、過去に何らかの出来事があった事が仄めかされていたりしますが、具体的に明かされていない人もいます。

しかし、それはあえて描かず、読者の想像に任せるという粋な配慮だと思います。

 

そうやって1人1人の過去を深堀するよりかは、「目の前の敵を倒す事」という利害関係の一致や目的の達成に集中する、というのがリアリティがありました。

「きっと色々あったんだなぁ」と読者思わせる事で、かえって人間味を引き出すことに成功されていたと思います。

 

亜人 最終巻はひどいのか?

ただ残念ながら、「亜人の最終巻はひどい」という意見もちらほら見かけました。

恐らく、佐藤との決着が割と「あっけなかったから」かもしれません。

 

言ってしまえば、ただの「気絶」ですからね。

完結するまでの約9年に渡った佐藤とのバトルの結末にしては、ちょっと期待外れを抱いた読者もいるかもしれません。

 

しかも、それでもまだ佐藤は生きていて「封印状態」でしかなく、復活の可能性もなくはありません。

一応、亜人には「寿命がある」という設定なのですが、果たして…?という所です。

 

僕としては「最強だったとしても、結局はただの人間だ!」というメッセージは、熱いものを感じました。

佐藤にとっては楽しい遊びだったとしても、永井にとっては、本当にいい迷惑だったことでしょう。

 

恐らく、佐藤は永井の事が好きだったと思うので、最終巻はある意味ではラブコメにも見えるような…?(見えないか。)

 

亜人を結末まで読んだ感想

というわけで、以上が亜人を一気読みして思ったところです。

作者様が長年の歳月を経て作り上げたものを、たった1日で消費してしまったのはやや罪悪感があります。

 

とはいえ、これだけの大作を世に送り出していただいたことへ感謝しております。

前半はぐちぐちと不満を書いてしまいましたが、面白かったことに変わりはありません。

 

やはり「佐藤との闘い」という面で見れば、そこには頭脳戦があり、スケールや規模の大きさ、大胆な発想に舌を巻くばかりでした。

また、登場人物同士の複雑な関係に対しても、妥協したり曖昧にせず、きちんと終止符を打ってくれていただいた事にも感謝です。

 

ずっと気になっていた展開が、どんな形であれ終わらせていただいたのは、永井圭と同様、「最後までやり遂げる力」を感じざるを得ませんでした。

 

というか、原作者が序盤でいなくなった時点で、僕だったら逃げ出したくなるような気がします。

しかも、今作は非常に話題にもなり、アニメ化、映画化までするほどの大規模な作品にもなりました。

そんなプレッシャーも恐らくあったと思いますが、それに打ち勝って最後まで描き切るというのは、並大抵のことではないはずです。

そんな作品に対し「惜しい」と思ってしまったのも、やはり申し訳ないです。

ですので、僕は今後この漫画を読み返すときに、違う視点、違う面白さを随時発見していきたいと思っています。

 

というわけで、今回の亜人の感想はここまでとさせていただきたいと思います。