タイザン5先生の漫画「一ノ瀬家の大罪」の解説をしていきます。
ネタバレもあるのでお気を付けください!
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打ち切りエンドではない
一ノ瀬家の大罪はタイムリープや夢落ちという演出が何度も繰り返されます。
そのため、意味不明とかストーリーの方向性が謎、理解が追い付かないという意見も見られる事も。
そのため打ち切りエンドとも言われたりもしますが、この漫画は打ち切りではなく、しっかりと完結しているのでご安心ください。
最終巻である6巻まで読めばわかるストーリーとなっているので、まずはざっくりとした物語解説をしていきます。
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あらすじと結末の簡易解説
一ノ瀬家のみんなは、自身の家庭環境を嫌っていました。
そんなある時、一家全員は「夢」を見ます。
その夢は家族全員が共有していて、記憶喪失という状態で始まり、各々が理想とする「家族の形」があったのです。
また、異変に気付いたとしても、ループしてしまうため簡単に抜け出す事は出来ません。
いっそのこと夢のままでいた方が幸せかもしれないと、家族はその誘惑に負けそうになります。
しかし、やがてその誘惑を断ち切り、家族全員は目を覚ますことになるのです。
そして、その夢を見せた犯人は、一ノ瀬家のお父さんである「翔」だった事が明かされます。
翔は自身のコンプレックスや家族の在り方に悩み、「すべてを忘れてやり直したい」 と望んでいたのです。
そして、一家全員に「夢を共有させる薬」を飲ませることで、その目的を達成しようとしました。
加えて、その薬を研究していたのは祖父である耕三でした。
耕三の目的は翔とは違い、もう1度家族をやり直す事でも、夢の中に逃げる事ではありません。
彼はただ「家族7人揃って記憶に残る旅」をしたかっただけなのです。
その旅は決して理想通りではなく、上手くいかない事も大変な事も多々ありました。
しかし、そんな旅の中で前を向き続けたのは主人公である「翼」だったのです。
皆が現実から逃げようとしても、翼だけは常に夢から抜け出そうと奮闘しました。
そして、翼の父親への呼びかけが家族の間に伝わり、一家全員が目を覚ますことなるのです。
もちろん、目を覚ましたからと言って、待っていたのは決して円満とは言えない家庭です。
しかし、これまでの旅の記憶はしっかりと残り、「いつも通りの日常」が新たに幕を開けるというラストとなっているのでした。
ストーリーが分かりにくい理由
一ノ瀬家の大罪は、ラストまで読めば物語の意図は納得のいくように明かされます。
しかし、それまでの過程が非常に複雑なため、読み返しても分からない部分はかなり出てくるはずです。
というのも、この物語は「架空としての夢」だけでなく「現実」及び「実際にあった過去の出来事」も描かれているからです。
そのため、どこまでが夢でどこまでが現実なのか、という線引きがかなり難しくなっています。
この現象は映画「パプリカ」や「インセプション」のような夢をモチーフとした作品にみられる特徴でしょう。
とはいえ、多少難解な点はあったとしても、ラストシーンで意図は明らかになっている点ではご安心を。
また、家族がそれぞれ抱える悩みにもしっかり向き合う事が出来ているので、物語としては完成されているのです。
ただ、解釈は人によって異なるため、明確な答えを求める方にとっては不満足だったかもしれません。
そこで、僭越ながら個人的な解説及び考察的な事も書かせていただきたいと思います。
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一ノ瀬家の大罪の解説
一ノ瀬家の大罪について1巻から順を追って詳しく解説していきます。
中学時代の翼の夢
まず、1巻から描かれる翼の中学時代は、完全な「夢の世界」の話です。
この時の現実世界では、家族で福井県に向かう際に事故に遭い、翼は昏睡状態となっています。
昏睡状態ながらも夢の中をさ迷い続け、その夢は家族と共有しているのです。
この「夢を共有している」という事が本作で最も重要な点なので押さえておきましょう。
その夢の中から最初に目を覚ましたのは父・翔であり、彼は現実の世界で翼が起きるのを待つこととなります。
その際、翼に「過去を見なきゃダメだ」というメッセージを残し、後に翼を昏睡から目覚めさせるきっかけとなるのです。
次に目を覚ましたのは母・美奈子であり、彼女も夢の世界から退場し、翔と共に翼を待ち続ける事に。
その後、夢の世界では祖父・耕三によってループしている事が明かされる展開になります。
また、翔に変わって新たな父親役として現れたのは「兄・颯太」でした。
※事故当時の颯太は車に同乗していないため、本人ではなく翼の生み出した幻のようなものだと思われます。
颯太はループ脱出するための方法として「事故の真相」を調べるように助言します。
本当に目を覚ますためには翼が過去を全て思い出し、受け入れる事が必要だったのです。
事故後の家族関係
事故が起こる前、現実世界における一ノ瀬家の関係性は、悪化の一途を辿っていました。
かつては家族仲が良かった事もありましたが、徐々に崩壊していく事を、翼は気に病んでいたのです。
だからこそ、ループから抜け出したいと思いながらも、夢の世界にとどまりたい気持ちもありました。
その一方で、翼が昏睡状態になってからというもの、美奈子は今まで翼と向き合わなかった事への後悔と絶望の日々を送るようになりました。
翔も同様の気持ちでしたが、その罪悪感から自ら命を断とうとします。
彼らの本心としては、家族をやり直したいと思いながらも、何もできない無力さを感じていたのです。
ところが翔は間一髪のところで美奈子に助けられると共に、彼女と同じ夢を共有しているという事実を知ります。
一度は壊れてしまった夫婦関係でしたが、夢を共有していた事や、翼を想う気持ちが一致したため、2人の関係は良好となったのです。
「再び翼と向き合いたい」という両親に呼応するように、翼も過去を受け入れる準備をします。
ところが、現実を思い出しながらも「夢の世界」に留まろうとした人物がいました。
それは祖母である幸恵です。
幸恵は現実世界において、耕三が寝た切りのアルツハイマーであることを思い出し、その事実を拒もうとしたのです。
そして、翼に思い出させることをやめさせ、夢の中で生きようとしました。
しかし、夢の中で耕三に勇気づけられた翼は、これまで目を逸らしてきた家族との過去に向き合ったのです。
(厳密に言えば、翼は本当は夢の中で生きたいと願ったものの、過去を直視したために、半ば不本意な形で現実へと引き戻される事となります。)
そして目覚を覚ました時の翼は、すでに17歳を迎えていました。
こうして夢の無限ループは一度終わり、しばらくは現実パートがメインとして進行します。
夢の中が幸せだったはずなのに
夢から目が覚めた翼ですが、まだ夢の世界への未練が残っていました。
そのため、現実に戻って来ても、毎晩のように「記憶喪失の家族」という夢を見る事となります。
とはいえ、以前よりも家族仲は改善されていて、両親はもちろん、妹や祖母とも明るく接する事が出来るようになっています。
そんなある時、耕三の私室のドアがたまたま空いている事に気づいた翼。
耕三の部屋は普段は鍵がかかっていて、誰も立ち入る事が出来ないはずでした。
翼は中を詮索しようと中に入ったところ、何者かによって眠らされることになります。
実は耕三の部屋には「夢を共有する薬」が隠されていて、それを翔が利用して家族に使っていた事が後に判明します。
翔は夢の中で家族との平穏な時を過ごし、その状態を現実世界に持ち込むことで仮初の幸せを築こうとしたわけです。
それは翔だけの知る計画でしたが、美奈子も幸恵もそれを望んでいました。
だからこそ美奈子は食事に催眠薬を混ぜ、幸恵も「夢を詮索するな」という脅迫文を差し出していたのです。
しかし、妹・詩織と共に家族間の異変に気付いた翼は、幸恵に詰め寄る事となります。
全てを知ろうとする翼の熱意に負けてか、幸恵の口から兄である「颯太」の存在がようやく明らかとなったのでした。
颯太の謎を知りたい翼ですが、その前に幸恵の身にトラブルが降りかかるのです…。
再び家庭崩壊
幸恵にとって、夢の中で耕三と過ごす時間は何よりも大切なものでした。
それを察してか、翔は秘密裏に「夢を共有する薬」を幸恵に盛るのです。
そのせいで幸恵は昏睡状態となりましたが、翔はそれを幸せな事だと信じていました。
ところが、幸恵の入院費や耕三の世話などのしわ寄せは、すべて美奈子にかかってくるのです。
美奈子はその不満を家族に盛大にぶちまけ、家族仲は再び険悪なムードとなっていきます。
その最中、翼は颯太の話を振るという地雷を踏み抜いてしまい、さらに大爆発。
その事がきっかけとなり、翼は自身が忘れてしまった颯太の事を、夢を通して思い出していくのでした。
颯太について
颯太は一ノ瀬家の中心的な人物であり、ムードメーカーでした。
しかし、家族が彼の大切な気持ちを踏みにじった事により、一ノ瀬家を去ったのです。
では颯太はどこに行ったのかと言えば、ニュースのテレビ中継により福井県にいることが偶然判明。
颯太も「夢の家族」の存在は知っているようでしたが、それよりも自分の望む「理想の家族」を手に入れようとしていたのです。
偽の妻と偽の息子も合意の上での3人暮らし生活を満喫していました。
翼は颯太の元へと出向き、連れ戻そうと説得を試みますが、彼らと一緒に暮らすうちに居心地の良さを覚えるように。
こうして翼を含めた4人暮らしが始まったものの、やはり理想通りとはいかないこともしばしば。
さらに、翼と颯太が一緒にいる姿もテレビ中継された事で、美奈子と翔にもバレてしまいます。
取り乱す美奈子に対し、翔は自分に任せるよう告げ、「今度こそ理想の家族なれる」という決意を固めることに。
疑似家族の崩壊後
颯太の思い描いた理想的な家族の形は、あっけなく崩壊します。
距離を取り、本音を隠し、作り笑いで過ごすだけでは、理想の家族とは言えなかったからです。
家族という呪縛から逃れたくても、結局逃れる事は出来なかったのでした。
途方に暮れる颯太に対し、翼は「一緒に一ノ瀬家に帰ろう」と提案。
颯太は乗り気ではなかったのですが、弟の手前、不本意な形で帰路を辿る事に。
その道中、2人が持ち歩いたペットボトルの中には「夢を共有する薬」が仕込まれていました。
(恐らく、翔は2人をすでにマークしていて、どこかですり替えたと思われます。)
そして2人は「夢の世界」に引きずり込まれ、夢の中で翔と対峙するのです。
夢の終わりに
最初は翔に反抗しようとする颯太でしたが、一筋縄ではいきませんでした。
夢の世界のあまりの居心地の良さに、颯太もまた飲まれていくようになったのです。
しかし、家族の良い面や汚い面をすべて受け入れた翼だけは抵抗し続けました。
その翼の想いが詩織にも、美奈子にも、幸恵にも伝わっていき、全員が目を覚ましていくように。
そして最後に目を覚ました颯太の「おはよう」という言葉を最後に、長い夢は終わりを告げたのでした。
夢を見せた犯人
そもそも夢を共有できるようになったのは、祖父である耕三の仕業だったことが翔の口から明かされます。
元々、一ノ瀬家は家族旅行として車で福井県に行くはずでした。
その道中、美奈子が用意した睡眠薬入りジュースがありましたが、耕三が「夢の薬」とすり替えていたのです。
全員は眠りにつきましたが、翼だけは薬を全て飲み切る前に途中で颯太に止められます。
その後、運転を代わった颯太のミスにより事故が起きてしまい、翼は4年間の昏睡状態の中で夢を見る…という事が物語の始まりだった事が明かされるのです。
祖父・耕三の目的
耕三が「夢の薬」にすり替えた理由は、7人全員で旅行に行くためでした。
夢の中であっても、家族全員が「共有できる思い出」を残したかったのです。
そのために耕三は家族全員に手紙を残していました。
耕三の願いはかない、何も変わらないけれど、それでも続く日常が、一ノ瀬家に訪れるというラストを迎えたのです。
一ノ瀬家の大罪 完
一ノ瀬家の大罪の考察
では、ここから考察タイムです。
それは、福井旅行に向かう際に起こった事故の真相と、「大罪」の意味についてです。
実は、上記の解説は分かりやすくるためにあえて一部誤って紹介したところがあります。
その訂正もしつつ、考察を含む解説をしていきましょう。
福井への旅行ではなく一家心中だった
翼が昏睡となる前に、車内で美奈子が睡眠薬入りジュースを渡そうとした事が言及されています。
この時は家族で福井旅行に向かっていた事が仄めかされましたが、実は旅行などではありませんでした。
すでに颯太が去ったことにより家族仲は最悪となり、普通に考えて旅行に行けるような状態ではありません。
また、車を運転できるのは颯太と翔の2人だけですが、そもそも颯太は車に乗っていないのです。
(時系列で言えば、翼が目覚めた2023年を基準とした時、颯太が失踪したのは2017年、翼が昏睡となったのが2019年となっています。)
それなのに、運転手であるはずの翔までもが眠ってしまっていたのは、普通に考えておかしいですよね。
つまり、これは福井旅行などではなく、車内での練炭等を使った一家心中が本来の目的だったのです。(実際、これは37話にて翼の発言によって明かされる事実です。)
また、これは翔と美奈子だけの計画であり、事前に察した耕三はそれを阻止しようとしたのではないかと考えられます。
そのために「夢の薬」にすり替えたと考えれば辻褄が合うのです。
そもそも、「家族全員で旅行に行きたかった」のであれば、普通に福井に行けば良かったでしょうからね。
結果的に生き残った翔が投身を図ろうとした理由も、その罪によるものだったのではないでしょうか。
つまり、家族をやり直せるはずなのに、無理やり終わらせたり現実逃避してしまう事が「大罪」なのかと。
そして、その原因は決して翔だけでなく、家族全員が引き起こした問題であるため「一ノ瀬家の大罪」というタイトルとなったのではないかと考えれるのです。
颯太が助けに来た理由
颯太も耕三から期待されていただけあって、夢の研究を知らされていたのではないかと思います。
そのため、「夢の薬」と共に一家心中の事についても、耕三から何らかの形で伝えられたのではないでしょうか。
だからこそ、車に向かって助けに行けたわけですし、眠りについたみんなを家に送ろうと運転を代わったのではないかと。
しかし、その道中に事故に遭ってしまい、翼を昏睡にさせてしまいました。
その罪悪感はあったとしても、家族を殺そうとしていた人間たちの元へは戻る事が出来ず、現実逃避してしまったのではないかと考えられます。
一家心中を語ったのは翼だけという事実
「心中」という言葉を口にしたのは翼だけですが、これは一ノ瀬家全員が認識している事だと思われます。
47話では4年前の颯太が運転する1コマがありますが、これは彼が助けに来た直後の描写でしょう。
その時、翼だけでなく詩織も覚醒状態であり、この時の颯太によって何が起こったかが聞かされたのではないでしょうか。
幸恵も幸三から何かを聞かされていたからこそ、あえて車に乗っていたのではないかと。
しかし、生き残った翔も美奈子も、あくまで「事故に遭った」という認識はありますが、心中を図ろうとしたという表現は一切ないのです。
この夫婦の場合は「都合のいい事は忘れたい」という願望を持っているため、忘れようとした可能性が高いでしょう。
翔が自分の行いを白状した際も、あくまで「あの事故」として語っているため、まるで心中しようとした事をなかった事にしています。
個人的には、そこに触れようとしない事への違和感は最後まで残ってしまいました。
罪を負ったまま、今後も生きて行こうとすることこそが、何よりの「大罪」だったのかもしれません。
というわけで以上、解説・考察に不備もあるかもしれませんが、その点は各々で補完していただけると幸いです。
一ノ瀬家の大罪は完成された物語
週刊連載だった今作は、毎週読んでいた場合は非常に分かりにくい物語だったと思います。
僕は単行本を一気買いし読んだため、話の整理をしながら楽しく読むことが出来ました。
非常に精巧な作りとなっていて、夢を題材とした作品としても高品質であり、打ち切りであるはずがありません。
難しいテーマながら問題のある家族を直視して、超濃密に描かれているというのは、離れ業と言ってもいいのではないでしょうか。
ハッキリ言って、滅茶苦茶すごい漫画です。
これだけ作り込まれていながら、目立つような矛盾も大きな粗もないって、天才過ぎませんかと。
悪い評価も多少はあるかもしれませんが、読んでよかったと思える作品でございました。
単行本をまだ持っていない方は、ぜひこの機会に読み直してみてください!
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