アミラーゼ・アレクサンドラ構文の答えと正答率について

今回のテーマは「アミラーゼ構文」及び「アレクサンドラ構文」の答えと正答率についてです。

アミラーゼ構文とは?

アミラーゼ構文とは日本語の読解力を試すためにしばしば引用される問題文です。

新井 紀子氏著書の「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」が出典となっています。

そこに書かれた問題文は下記の通り。

アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

セルロースは(     )と形が違う。

(1) デンプン (2) アミラーゼ (3) グルコース (4) 酵素

新井紀子著『AIvs.教科書が読めない子どもたち』

正解は最後に発表するとして、まずこの手の問題で重要なのは、文章そのものを読む事ではありません。

重要なのは「自分が今、何を問われているのか?」という点です。

問われているのは「アミラーゼ」の話でも「グルコース」の話でもありません。

問題は「セルロースと違う形のものは何か?」についてです。

文章の主語としては「アミラーゼ」であり、その説明文となっています。

しかし、実際の問いでは、アミラーゼの事は1mmも問われていないのです。

それよりもさらっと紹介されている「セルロース」の方に「主語が替わっている」という点に注意するべきなのです。

ここがまずひっかけのポイントになっており、正答率が下がる理由かと思われます。
(正答率については後程。)

セルロースを主語に置き換えて考える

というわけで「セルロース」を主語にする事が正解への道となります。

問題文を改めて読んでみましょう。

アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

セルロースを主語にすると、「グルコースからできている」事が分かります。

次に「分解できない」とありますが、これだけでは意味が分からないので、こちらの主語を探しましょう。

読み直すと「アミラーゼという酵素は~」という主語述語の関係なので、「セルロースはアミラーゼでは分解できない」と通ります。

そして問われているのは、グルコースと形が違うもの。

つまり「セルロースはグルコースからできているが、(     )と形が違うためアミラーゼという酵素では分解できない」という問題に読み直す事が出来るのです。

この(     )に当てはまる言葉を探せば正解となります。

アミラーゼ構文の答えは?

選択肢としてはデンプン、アミラーゼ、グルコース、酵素の4つです。

先ほどの(     )に1つずつ当てはめていくと、おのずと答えは出ます。

アミラーゼ、グルコース、酵素では意味不明の文章となるでしょう。

正しく筋が通るのは「デンプン」以外ありえません。

よって問題の答えは「デンプン」となります。

正直、問いかけ方が悪い気もする

答えが分かれば多少は納得できますが、この問題は悪文と言われることがあります。

個人的には、文章自体は悪文ではないにしろ「問いかけ方」に問題があると思われます。

「セルロースは(     )と形が違う。」という一文だけでは説明不足であるため、多少の悪意を感じないわけではありません。

より分かりやすい問いかけ方としては「セルロースは(     )と形が違うためアミラーゼでは分解できない。」となります。

ただ、読解力のテストとして作られたものなので、問題の難易度を意図的に上げられた文章となったのでしょう。

アレクサンドラ構文について

アミラーゼ構文とともに話題になるのが「アレクサンドラ構文」です。

こちらもまた「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」が出典となっています。

本文は下記の通り。

Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。



この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

Alexandraの愛称は(   )である。

1.Alex 2.Alexander 3.男性 4.女性

新井紀子著『AIvs.教科書が読めない子どもたち』

ここでもまた「何を問われているのか?」に注視する必要があります。

問われているのはあくまでAlexandraの愛称は?という点です。

これは余計な部分を削り取れば答えが出てきます。

削り取った結果がこちらです。

Alexは女性の名Alexandraの愛称である

「男性にも女性にも使われる名前」と「男性の名Alexanderの愛称でもある。」という余計な文章を削りました。

よって答えは「Alex」です。

アミラーゼ、アレクサンドラ構文の正答率は?

下記の番組の調べでは、アミラーゼ構文の正答率は16.3%という、4択にしてはかなり低い数値が出ています。
(著書には正答率の記載はありませんでした。)

一方、著書によればアレクサンドラ構文の正答率は、全国の中学生(235名)では38%。(中1~中3)。

全国高校生(432名)の正答率は65%との記載がありました。

新井氏は「愛称」という言葉という知らない単語に触れたため、読み飛ばしてしまった結果だと推測されています。

その上で、語彙力の低下や進学校の勉強の効率の悪さなど、厳しめの教育批判がなされていました。

AIvs.教科書が読めない子どもたち について

では、これらの構文の出典となった「AIvs.教科書が読めない子どもたち」とはどんな書籍なのか?

これは「AI技術が発達する未来に対し、人間はどう向き合うか」を独自の目線で述べられた本です。

その中に、勉学におけるAIと学生との学力の比較が論じられています。

そこで登場するのが、新井氏が研究し独自に作成したリーディングスキルテスト(RST)です。

RSTとは、これまで曖昧だった「読解力」という能力を「数値化」するためのテストとなります。

このRSTの一部の問題こそがアミラーゼ・アレクサンドラ構文というわけです。

RSTの問題はこの他にもありますが、軒並み小~高校生の正答率が低かった事について述べられおり、読解力がいかに大切かを熱弁されています。

そして「教科書すら読めない読解力では、AIに仕事を取られかねませんよ!!」という危機感を煽る趣旨となっているのです。

RSTはそこまで信用しなくてもいい?

ただし、今回のような問題を間違えたからと言って「読解力がない」と判断するには疑問が生じます。

なぜなら、RSTとは本当に「読解力」を調査できるのかという信憑性に欠けるからです。

RSTで分かっている事はあくまで「高偏差値の人はRSTの得点が高かった」という相関関係に過ぎません。

それなのに著書では「読解力が低いと難関大にも入れない」と結論づけられています。

さも因果関係があるような主観で書かれるという誤謬もあり、正当性を証明するための検証が必要な段階ではないかと。

事実としてあるのは「高偏差値の人はRSTの得点も高い傾向にある」というだけの話であり、それ以上でもそれ以下でもないのです。

しかも、読解力が低い原因も分からずじまいであり、それを上げるための具体的な方法は、この時点でも明らかになっていません。

(後に「シン・読解力」というものを提唱されるようになりましたが、具体な習得方法はごくごく限られていますし、簡単にチェックする事も出来ません。)

つまり、新井氏の言う「読解力」とはRSTという独自かつ曖昧な基準で語られているに過ぎないという事です。

ですので、今回のような問題はあくまで参考程度であり、絶対的な指標ではないという事です。

日本人の読解力は本当に低下しているのか?

また新井氏はさかんに「読解力の低下」について訴え、例えば下記のように指摘していました。

私たちは科学的なデータに基づいて、多くの学生が「教科書を読めないまま卒業している」と申し上げてきました。
しかも、高校生になると学校教育だけでは読解力は向上しにくくなるので、大体、多くの方が中学3年生の読解力のまま大人になっていると思われます。このような事実が、日本でも海外でも最初は全く受け入れられませんでしたね。

https://www.all-different.co.jp/hrl_specialinterview/readingskill01.html

同氏の言う「科学的データに基づいた読解力の低さ」とは、あくまでRSTの得点の低さを根拠としています。

ところが「PISA」という、OECDによる国際的な生徒の学習到達度調査では「読解力」だけでなく、科学、数学において目覚ましい結果が出ている事が判明しているのです。

最新の2022年調査では、日本は科学的リテラシーが2位、読解力が3位、数学的リテラシーが5位でした*2。1つ前の回の2018年調査では、科学的リテラシーが5位、読解力が15位、数学的リテラシーが6位。2018年より前の結果をふまえても、日本の15歳の学力はOECD加盟国中トップクラスを維持しています。一部の報道で「日本の読解力が低下した」といわれたこともありますが、長期的な傾向としては低下しているとは言い切れません。

https://benesse.jp/educational_terms/30.html

つまり「日本人の読解力が低下している!」と個人が騒いでも、国際的な視点から見れば「高水準を維持してるよね」というだけの話となります。

そうなるとRSTの正当性も危うい上、そのものの意義も問われてくるわけです。

よって、アミラーゼ構文やアレクサンドラ構文を間違えたところで、安易に「読解力が低い」と結論付けるのは正しいとは言えないのです。

これらのテストはひっかけ問題に対する耐性でしかない

さらに言わせてもらえば、こんなただのクイズじみた問題に一喜一憂する必要もないかと。

またRSTに限らず、自動車教習所の学科試験においても、こんな読解力を試すような問題があります。

Q.赤信号は必ず止まらなければならない。

この答えは一見「YES」に見えます。

しかし、実際は「NO」です。

なぜなら「緊急車両はその限りではないため」。

つまりはアミラーゼもアレキサンドラも読解力云々ではなく、「ひっかけ問題への耐性」でしかないという事です。

わざわざ読解力なんて言葉を持ち出さなくても「学習」という単純な作業で対応可能なのではというのが個人的な意見です。

もし間違えたとしても「間違えた理由」を知り、「正しい答え」を学ぶ事こそが「学習」なのです。

学習は能力というよりも、「数をこなす事」で大抵は何とかなったりします。

実際、反復学習の有効性については様々な場所で論じられていますからね。

高偏差値の人はそれだけ「問題を解く事に特化」していたわけですから、RSTが相対的に「簡単な問題だった」とも言い替えられます。

ですので、間違えたからと言って自他の「能力の低さ」を指摘するのはあってはならない事でしょう。

むしろ同氏のように偏差値に拘る事は、学歴や能力主義による差別を助長しかねませんので、その点だけは留意しておきたいところです。

実際、ネット上では「アレキサンドラ構文も分からんのか?」というマウントを取るような用途に使われがちですからね。

最後に

さて「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」は2018年に書かれた古い本です。

もしご自身の読解力が気になるのであれば、2025年に出版された「シン読解力: 学力と人生を決めるもうひとつの読み方」を読まれることをお勧めします。

結局は「RSTというテストに正解する事」が新井氏の定義する「読解力」でしかない事が分かると思います。

同氏の主張が正しい事を証明したり擁護するのであれば「読解力が低い根本的な原因」と「読解力を上げるための具体的な方法」を明確にするべきでしょう。

しかしRSTに正当性が証明されていない以上、いくらデータを持ち出しても、机上の空論でしかないのです。

ちなみに、OECDではPISAのほかにも「PIAAC」というテストを実施されています。

こちらの方でも日本における読解力は高水準にあったそうです。

日本は前回1位だった読解力と数的思考力で2位、初めて試した問題解決能力で1位と好成績を維持した。調査は11年ぶりで、31カ国・地域が参加。日本は進学率の向上などを背景に、平均得点の高い若年層が全体の水準をけん引した。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE026QN0S4A201C2000000/

しかも、この被験者はエリートというわけではなく、住民基本台帳から無作為に抽出された、日本国在住の16歳以上65歳以下の個人を対象とされたとのこと。
参照:国際成人力調査(PIAAC:ピアック)

PISA、PIAACの結果から見るに「日本人の読解力及び教育は高水準にある」という見方の方が正当でしょう。

ですので、新井氏の言う「教科書すら読めない」という教育批判は見当違いもいい所ではないでしょうか。

結局「日本人は○○が低い!」というのは根拠が乏しくも、主語の大きいものを否定する事で話題を勝ち取ろうとする、よくあるアジテーションの1つでしかありません。

もっとも学習塾関係者は信憑性など関係なく、嬉々として「RST」を活用する事でしょう。

彼らはこういうデータやテキストをありがたがり「都合よく」利用する事で「ビジネス」を成立させようとしているわけですからね。

その際「○○が低いと大変なことになりますよ!今すぐ能力を高めましょう!!」といって危機感を煽ってセールスする様は、霊感商法に通じるところもあるため、くれぐれもご注意を。

(新井氏の所属する国立情報学研究所は、文部科学省関連の研究機関であるため、なおさら権威性を持つからタチが悪い。)

もちろん、気にする方は気にすればいいし、個人的には「そんなものの正答率にいちいち振り回されてどうすんの?」って感じですけどね。

今回はいちおう解説的なことはしましたが、あくまでブログのネタの一環と言う事で。
(そのためにわざわざ1000円以上もする同氏の書籍を2冊も買うハメになりましたが。)

というわけで、今回は以上です。

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